
なぜ「シーパップ以外」の選択肢が注目されているのか
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に呼吸が止まることで、日中の眠気や集中力の低下、さらには高血圧や心疾患、脳卒中のリスクを高める深刻な疾患です。多くの場合、症状は無自覚で進行し、いびきや寝起きの頭痛、日中の強い眠気などで気づかれることが多いです。
この病気の治療法として最も知られているのが、CPAP(シーパップ)療法です。CPAPとは、鼻に装着したマスクを通じて気道に空気を送り込み、閉塞を防ぐことで無呼吸を改善する治療です。効果は高く、標準的な治療法とされています。
しかし、CPAP療法はすべての人に適しているわけではありません。マスクの違和感、機器の音、乾燥、持ち運びの不便さなどの理由で継続が困難な人も多くいます。そこで注目されているのが「シーパップ以外」の治療法です。患者の症状やライフスタイルに合わせて選択できる多様な治療法が存在し、より快適に治療を続けるための選択肢として注目されています。
シーパップ療法が合わない理由とその問題点
CPAP療法がいかに効果的であっても、使用を続けられなければ意味がありません。以下に、よくある「シーパップが合わない」と感じる理由をまとめてみましょう。
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マスク装着時の違和感が強く、眠れない
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睡眠中の動きが制限され、寝返りが打てない
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鼻詰まりや喉の乾燥が悪化する
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機器の動作音が気になって眠れない
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出張・旅行に持ち運ぶのが面倒
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長期使用への心理的抵抗がある
これらの理由でCPAPを中止してしまうと、再び無呼吸状態に戻り、症状の悪化や合併症のリスクが高まります。そのため、CPAPが合わない人には、代替手段の検討が必要になります。
シーパップ以外の主な治療法
ここでは、CPAP以外で睡眠時無呼吸症候群を改善するために実際に用いられている治療法を紹介します。それぞれの治療法には向き不向きがあるため、医師と相談しながら選ぶことが大切です。
マウスピース(口腔内装置)
軽度〜中等度のSASに用いられることが多いのが、就寝時に装着するマウスピースです。これは、下あごをわずかに前方に出すことで気道を広げ、無呼吸を防ぐ仕組みです。歯科で個人に合わせて製作されます。
<メリット>
・CPAPよりも違和感が少なく、慣れやすい
・コンパクトで旅行や出張時にも便利
・比較的低コストで保険適用も可能
<デメリット>
・重度のSASには効果が弱い場合がある
・使用により顎関節や歯に負担がかかることもある
・作成には対応できる歯科医院が必要
外科的手術(UPPP、扁桃摘出など)
気道の形状や扁桃腺の肥大が原因でSASを発症している場合は、外科手術も選択肢になります。最もよく知られているのがUPPP(口蓋垂軟口蓋咽頭形成術)や、扁桃摘出術です。これらは物理的に気道の狭窄を取り除く方法です。
<メリット>
・手術が成功すればCPAP不要になる可能性がある
・根本的な治療が可能
<デメリット>
・術後の痛みやリスクがある
・完全に治るとは限らず、再発の可能性もある
・保険適用でも入院や手術費用が高額になることもある
減量と生活習慣の改善
肥満はSASの大きな要因の一つです。特に首周りや舌根部の脂肪が気道を圧迫することで、無呼吸が起こりやすくなります。したがって、体重を落とすことは症状改善に直結します。また、アルコールや喫煙の習慣もSASの悪化要因となるため、見直しが必要です。
<メリット>
・根本的な原因の改善につながる
・全身の健康に良い影響がある
・薬や機器に頼らない自然な方法
<デメリット>
・成果が出るまでに時間がかかる
・強い意志と継続的な努力が必要
横向き寝・体位療法
仰向けに寝たときに無呼吸が悪化する人には、体位療法が有効です。横向きに寝ることで舌が喉の奥に落ち込むのを防ぎ、気道の閉塞を軽減します。市販されている体位保持ベストや、抱き枕を使って仰向けを防止する方法もあります。
<メリット>
・始めやすく、副作用がほとんどない
・CPAP機器や医療機関に頼らず改善を試みられる
<デメリット>
・重度のSASには効果が限定的
・無意識に仰向けに戻ってしまうこともある
薬物療法は補助的に活用されることもある
睡眠時無呼吸症候群そのものを根本的に治療する薬は、現在のところ存在していません。ただし、補助的な治療として、鼻づまりやアレルギーの改善を目的とした薬物療法が使われるケースもあります。たとえば、アレルギー性鼻炎による鼻閉がある場合は、点鼻薬や抗ヒスタミン薬などが処方されることがあります。
また、一部では筋弛緩作用を抑えるような薬の研究も進められていますが、現時点ではまだ標準的な治療には至っていません。あくまでもCPAPや他の治療を補助するものと考え、単独での使用には注意が必要です。
シーパップ以外の治療法を選ぶ際の注意点
睡眠時無呼吸症候群の治療法は多岐にわたりますが、以下のような視点を持って選択することが大切です。
自分の症状の重症度を把握する
軽度・中等度・重度のどれに当たるかによって、適切な治療法は変わってきます。たとえば、軽度の場合はマウスピースや体位療法で改善が見込めますが、重度の場合はCPAPや手術が必要になることもあります。まずは医療機関で正確な診断を受けることが最優先です。
医師との相談が不可欠
自己判断で治療法を決めるのは危険です。特に手術やマウスピースなどは専門の診療科と連携しながら進める必要があります。耳鼻咽喉科、呼吸器内科、歯科(睡眠歯科)など、それぞれの専門性を活かした治療を受けることが重要です。
保険適用・費用面を確認する
CPAP療法は健康保険が適用され、月々の自己負担額はおよそ5,000円前後です。一方、マウスピースも保険適用されるケースがありますが、自由診療の場合は3〜6万円以上かかることもあります。手術についても保険の範囲内で行えるものが多いですが、事前に費用を確認しておきましょう。
シーパップ以外の治療法まとめチェックリスト
以下は、シーパップ以外の治療法を比較できるチェックリストです。自分のライフスタイルや重症度に合った治療法を選ぶ際の参考にしてください。
治療法 | 適応する重症度 | 費用の目安(保険適用時) | 主なメリット | 主なデメリット |
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マウスピース | 軽度〜中等度 | 約1〜2万円 | 違和感が少なく、旅行にも便利 | 歯や顎に負担、効果に個人差あり |
外科的手術 | 中等度〜重度 | 数万円〜数十万円 | 根本的な治療が可能、CPAP不要の可能性 | 術後の痛み、再発のリスクあり |
減量・生活改善 | すべて | 費用なし | 全身の健康にも良い、自然な方法 | 継続には努力が必要、即効性は低い |
体位療法 | 軽度〜中等度 | 数千円〜1万円程度 | 手軽で副作用が少ない | 無意識に仰向けに戻ることがある |
補助的薬物療法 | 鼻詰まりがある人 | 数百円〜数千円 | 呼吸をサポートする補助療法として有効 | SASの根本的な改善にはならない |
まとめ:自分に合った治療法で快適な睡眠を手に入れよう
睡眠時無呼吸症候群の治療は、CPAP療法だけではありません。マウスピースや外科手術、生活習慣の見直し、体位療法など、多くの選択肢が用意されています。大切なのは、自分の重症度やライフスタイルに合った治療法を医師と相談しながら見つけることです。
無呼吸を放置していると、心臓や脳に深刻なリスクが及ぶだけでなく、日常生活のパフォーマンスも低下してしまいます。「シーパップ以外」で無理なく続けられる方法を探すことは、健康的な生活への第一歩です。治療を諦めず、自分に合った方法で快適な睡眠を取り戻しましょう。
参考・引用URL
・日本呼吸器学会「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」
https://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=26
・スリープクリニックグループ「睡眠時無呼吸症候群の治療法」
https://www.snoreclinic.jp/sas/治療法
・日本睡眠総合検診協会「SASの治療について」
https://www.jssr.gr.jp/general/sas-treatment/